2017年01月12日

◆矢野歴史講座18-まとめ:自治は共同体から始まる

今日は、長らくそのままになっていた「矢野歴史講座」です。

「矢野歴史講座」は、矢野町の地域づくりを行うにあたって地域自治あるいは住民自治を念頭におき、自身の歴史から何かヒントを得ることができないか、と中世の荘園「矢野荘」を題材に開催してきました。前回から1年以上経っていることもあり、とりあえずここで一度閉めようと思います。というわけで、今回は矢野歴史講座のまとめ(総括)となります。

この講座は、矢野荘の起こりから始まり、奪われた権利の主張者として「悪党」を捉え、本題の地域自治・住民自治に関わる「惣村」という村落共同体へと話は進みました。矢野荘で実際に起きた惣荘一揆を『東寺百号文書』をひもときながら、一味神水などそこにある自治性を見ました。

そして、惣村の中身へと向かいます。村落自治の根幹にあるのは「寄合(よりあい)」、寄合での話し合いです。全員一致へと向かう寄合での合意形成のあり方を詳しく見ました。時間をかけて話題を回すうちにメンバーがストンと腑に落ちるところに話が落ち着く。その結果に対してメンバー全員が守ることを約束する、このことが全員一致の意味(=合同一致)でした。つまり、ここには少数意見を切り捨てるような「説得」ではなく、メンバー間の「納得」がありました。そして、この約束の事柄が「掟」となるのでした。掟の事例で取り上げた東北地方の歴史的な自治組織「契約講」の「契約」とは、メンバー(当事者)間の約束を意味しました。

こうして見てくると、そのメンバー間には「仲間」という関係性が浮かび上がってきます。私は人間学的に共同体とは「仲間」という関係体と考えるのです。メンバーの個々は「信頼」でつながっている、それが「仲間」だと思います。村落共同体は、共同体の円滑な運営のためにこの「仲間」という関係を維持していく必要があり、そのために祭りやとんどなどの年中行事や寄合の後の直会(なおらい=共同飲食)など、先人たちはこれまで努力を重ねてきたのだと思います。

ところで、昨年は国民投票でイギリスがEUからの脱退が決まり、アメリカでは選挙により保護主義のトランプ氏が大統領に選ばれるなど「民主主義は本当に大丈夫か?」と問い沙汰されている昨今、先日、民主主義をもう一度学ぼうと直接民主主義を唱えフランス革命を牽引したルソーの『社会契約論』にあたりました。当初、この「契約(contract)」は、近代的な1対1の契約、国家と人民の契約と勝手に想像していたのですが、実は先に述べた村の寄合で当事者間の「約束」に近い意味で使われているということがわかりました。目から鱗です。

『社会契約論』の「契約」と「契約講」の「契約」は、同じ意味だったのです。ルソーは自律した人民同士の約束により国家が形成されると考えていた。この講座で以前「中世の『惣村』時代から続く寄合はそれこそ日本の民主主義であった」と記しましたが、それが証明されたような気分です。しかも契約講の成立は中世ですから、ルソーが民主主義を夢想し『社会契約論』を著した時(1762年)よりもずいぶん早く、日本の村の寄合は民主主義を先取りしていたと言えなくもありません。

民主主義の本質は、多数決ではなく、対話(ダイアローグ)で真摯な話し合いを重ねるプロセスにあるといわれます。民主主義を守り地域自治を育て根付かせるためにも、私たちはかつての村の寄合をもう一度、見つめ直してみるのも大事ではないでしょうか。共同体は歴史的に共産主義やファシズムに利用された側面もあります。今後は、共同体や民主主義についてもう少し深く掘り下げていきたいと思います。



とんど-矢野町上 (2012)





上で寄合は「説得」ではなくて「納得」だといいましたが、昨日(1/11)偶然にも「納得」に関する記事に出会いました。

朝日新聞の鷲田清一「折々のことば」で、北方謙三の小説の中の言葉として

  覚悟ってのは、どこかでぽきりと折れちまったりする。
  納得ってのは、どんなに曲げられても、折れやしねえんだよ。
  折れたら、折れたところで納得する。

が載せてあり、次のように解説してありました。

  腹をくくるより、肚(はら)がすわっているほうが強靭ということか。
  たしかに判断や決断と納得や得心とは水準が違う。
  だから人は「話はわかるけど納得できない」とか、
  逆に「わからないけど納得はできる」と言う。




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Posted by 矢野町交流広場 at 11:15│Comments(0)矢野歴史考
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